2014年2月14日金曜日

奈良の旅人エッセイ-14-「奈良を旅して」

「奈良を旅して」
               
「いつかは正倉院展を観てみたいと」その思いがようやくかなった昨年の秋の奈良旅でした。 
メインテーマの正倉院展はもちろん素晴らしいものでしたが、一番の思い出と聞かれると、「正倉院展の帰りに歩いた夜の奈良公園」なのです。 
人影は無く、街灯も少なく闇夜の中を歩くのは怖さもありましたが、夫と歩いている安心感からか凛とした空気が心地よいものでした。 途中出会った公園警備の方から「鹿は大丈夫だけど、猪に追いかけられないように気を付けて」と声をかけられて周りを見ると昼間と変わらず鹿たちがそこにいるのに気が付きました。  夜はてっきり若草山の人目のないところで過ごすものと思っていましたが、奈良の鹿たちにとってこの公園はそのまま寝床でもあるのですね。夜の奈良公園は充分、人目がない場所なのでしょう。そんな夜の時間を邪魔しないように、そーっと歩く私たちに気づいているのかいないのか、時々聞こえる鹿の鳴き声がまるで、まほろばの国への呼び鈴のようにも思われたのでした。 
ほんの15分ほどの出来事が千年前へタイムスリップしたことなのかもしれないと思うほどでした。
町中に鹿が歩いている光景は、奈良に住む人にとっては日常なのかもしれませんが、旅人にはとても鮮烈な出来事でした。
旅で神社仏閣、名所旧跡を訪ねることももちろん楽しいものですが、「夜の奈良公園を歩く」そんなささやかなことが、この旅のとっておきの思い出になりました。 
奈良は特別なプランがなくてもぶらり出かけるだけで、きっと楽しい、そんな場所だと思う旅でした。
そしてもうひとつ、この旅を終えて感じたのは、奈良は「邂逅(かいこう)」の場所なのかもしれないと。
ずーっと思っていて、その思っていたことが薄らいできたころに思いがけず出会う場所やモノやこと。巡り合いを求めて、その思いを今は小さく折りたたんで。いつか開くときがまた来るように。
そんな奈良に、またいつか旅をしたいと思っています。

神奈川県在住 K.K.様 50代 女性